ボールペンの正式名称は?明日話したくなる「亡命と空軍」の意外な歴史

「ねえ、ボールペンってそもそも何の略か知ってる?」

ふとした瞬間に気になる、この素朴な疑問。
営業先でのアイスブレイクや、同僚とのランチタイム。ちょっとした雑談のネタとして、この話題が出たことはありませんか?

結論から申し上げますと、正解は「ボールポイントペン(Ballpoint pen)」です。

「へぇ、そうなんだ」

……で、終わってしまってはもったいない。
実は、私たちが普段何気なく使っているこのペンの裏側には、ナチスの迫害を逃れた発明家の執念と、イギリス空軍を救った技術という、まるで映画のようなドラマが隠されているのです。

この記事では、単なる名称の正解だけでなく、明日の雑談で「博識だね」と一目置かれるための、大人の教養としてのボールペン講座をお届けします。


[著者情報]

文具 語(ふみぐ かたる)

文房具カルチャーライター / 元商社営業マン

商社での営業職時代、雑談のきっかけ作りに文房具の知識を活用し、数々の商談をまとめてきた経験を持つ。「文房具は単なる道具ではなく、ビジネスコミュニケーションを円滑にするための教養である」が持論。現在は文房具の歴史や機能美を解説するコラムを多数連載中。


まずは結論から:正式名称は「ボールポイントペン」だが…

まずは、読者の皆様が一番知りたい「正解」をはっきりさせておきましょう。

ボールペンの語源となった英語の正式名称は、「ボールポイントペン(Ballpoint pen)」です。
ペン先に小さな金属のボール(Ball)があり、それが回転することでインクを紙に転写する点(Point)を持つペン、という意味ですね。

日本にこの筆記具が入ってきた当初は「ボール・ポイント・ペン」と呼ばれていましたが、日本人にとってこの名称は長すぎました。そこで、言いやすさを求めて「ポイント」が省略され、「ボールペン」という和製英語として定着したのです。

JIS規格では「ボールペン」が正解

「じゃあ、『ボールペン』と呼ぶのは間違いなの?」と不安に思う方もいるかもしれません。ご安心ください。

日本の工業製品の基準を定めるJIS規格(日本産業規格)においては、この筆記具の名称は「ボールペン(JIS S 6039)」と定義されています。つまり、日本国内においては「ボールペン」こそが公的な正式名称なのです。

  • 語源的な正解: ボールポイントペン(Ballpoint pen)
  • 日本国内の公的な正解: ボールペン

この二重構造を押さえておけば、どちらの答えが返ってきても「実はね…」と話を広げることができます。

なぜ「ボール」なのか?インク漏れと戦った発明家のドラマ

さて、ここからが本題です。
なぜ、ペン先に「ボール」を入れる必要があったのでしょうか?

その答えは、ある一人の男の「インクへの執念」「亡命の物語」にあります。

発明者の名前は、ラースロー・ビロ(László Bíró)
1930年代、ハンガリーで新聞記者をしていたビロは、毎日あることにイライラしていました。それは、万年筆のインクがなかなか乾かず、せっかく書いた原稿が汚れてしまうことでした。

「新聞の印刷インクはすぐに乾くのに、なぜ万年筆のインクは乾かないんだ?」

ビロはそう考え、新聞用の速乾性インクを万年筆に入れてみました。しかし、結果は失敗。速乾性インクは粘り気が強すぎて、万年筆のペン先では詰まってしまったのです。

そこでビロが思いついたのが、「ペン先に小さなボールを埋め込み、ボールが回転することで粘り気のあるインクを引き出す」という画期的なアイデアでした。これが、ボールペンの原点です。

しかし、時代は第二次世界大戦の真っ只中。ユダヤ人であったビロにも、ナチス・ドイツの迫害の手が忍び寄ります。ビロは開発半ばで祖国ハンガリーを追われ、遠く南米のアルゼンチンへと亡命を余儀なくされました。

命からがら逃げ延びたアルゼンチンの地で、ビロはついにこの新しい筆記具を完成させます。1943年のことでした。もし彼が亡命していなければ、私たちが今使っているボールペンは存在しなかったかもしれません。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス

【結論】: 雑談でこの話をする時は、「ボールペンは新聞記者のイライラから生まれた」という点と、「ナチスから逃れて完成させた」というドラマ性を強調しましょう。

なぜなら、単なる「機能の説明」は相手を退屈させますが、「人の感情(イライラ)や運命(亡命)」が絡むストーリーは、相手の記憶に強烈に残るからです。このエピソードを語れるようになれば、あなたはただの物知りではなく「話の面白い人」になれます。

世界に広まったきっかけは「イギリス空軍」だった

アルゼンチンで完成したボールペンが、なぜ世界中に広まったのでしょうか?
そのきっかけを作ったのは、なんとイギリス空軍(RAF)でした。

当時、イギリス空軍は深刻な問題を抱えていました。
上空を飛ぶ戦闘機のパイロットたちが使う「万年筆」が、気圧の変化に耐えられず、インク漏れを起こしていたのです。高度が上がると気圧が下がり、万年筆の中の空気が膨張してインクを押し出してしまう現象です。これでは、飛行日誌を記録することもままなりません。

そこでイギリス空軍が目をつけたのが、ビロが発明したボールペンでした。

「粘度の高いインクを使い、ボールで密閉されているこのペンなら、上空でも漏れないのではないか?」

この読みは的中しました。
ラースロー・ビロの発明したボールペンは、上空の激しい気圧変化でもインク漏れを起こさず、滑らかに書くことができたのです。

イギリス空軍はこのペンを正式採用し、3万本もの注文を出しました。こうしてボールペンは、「戦場の空を支える最新技術」として世界的な注目を集め、戦後、一般の人々にも爆発的に普及していったのです。

海外では通じない?「Ball pen」と「Biro」の使い分け

最後に、グローバルに活躍するビジネスパーソンのために、海外での呼び方について少し補足しておきましょう。

先ほど、正式名称は「Ballpoint pen」だとお伝えしました。
海外、特に英語圏で「Ball pen(ボールペン)」と言っても通じなくはないですが、少し子供っぽい、あるいは不自然な響き(和製英語的)に聞こえることがあります。ビジネスの場では「Ballpoint pen」と言うのが無難です。

そしてもう一つ、知っておくと一目置かれるのが「Biro(バイロー)」という呼び名です。

イギリス、オーストラリア、ニュージーランドなどでは、発明者であるラースロー・ビロに敬意を表して、ボールペンのことを一般名詞として「Biro」と呼ぶ文化があります。

「Can I borrow your Biro?(そのボールペン、借りていい?)」

もし海外出張でこんなフレーズが聞こえてきたら、「ああ、発明者のビロさんのことだな」と思い出してください。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス

【結論】: イギリスやオーストラリアの人と話す機会があれば、あえて「Do you call this a Biro?(これのこと、バイローって呼ぶんでしょ?)」と聞いてみてください。

なぜなら、相手の国の文化や歴史を知っていることを示すのは、最強のラポール(信頼関係)形成術だからです。「よく知ってるね!」と会話が弾むこと間違いなしです。

よくある質問(FAQ)

ここでは、ボールペンにまつわるその他の疑問にサクッとお答えします。

Q1. シャープペンの正式名称は?

A. 「エバー・レディ・シャープ・ペンシル」です。
これも実は商品名が由来です。1915年に早川徳次(シャープ創業者)が発明した「早川式繰出鉛筆」が、後に「エバー・レディ・シャープ・ペンシル(常備されている尖った鉛筆)」と名付けられ、そこから社名の「シャープ」も生まれました。

Q2. 日本で最初にボールペンを作ったのは?

A. 現在のオート株式会社(OHTO)です。
1949年、当時は「オートペンシル」という社名でしたが、日本で初めて鉛筆型のボールペンを実用化しました。進駐軍が持ち込んだボールペンを見本に、苦心の末に開発されたと言われています。

Q3. 水性と油性の違いは?

A. インクの溶剤と書き味の違いです。
油性は耐水性に優れ、公文書向きですが書き味は重め。水性はサラサラ書けて発色が良いですが、水に弱いのが欠点です。最近では、両方のいいとこ取りをした「ゲルインク」や「エマルジョンインク」が主流になりつつあります。


まとめ :明日の雑談はこう切り出そう

いかがでしたでしょうか。
たかがボールペン、されどボールペン。その小さなボディには、歴史を動かすほどのドラマが詰まっていました。

【今回のまとめ】

  1. 正式名称は「ボールポイントペン」(JIS規格では「ボールペン」)。
  2. 発明者ラースロー・ビロは、ナチスから逃れた亡命先でこれを完成させた。
  3. 世界に広まったきっかけは、イギリス空軍が「空でインク漏れしないペン」として採用したこと。

明日の職場で、誰かがボールペンを使っているのを見かけたら、ぜひこう切り出してみてください。

「ねえ、そのボールペン、元々は空軍のために作られたって知ってる?」

そこから始まる会話が、あなたのビジネスや人間関係を少しだけ豊かにしてくれることを願っています。

もし、さらに文房具の奥深い世界に興味が湧いた方は、ぜひ「万年筆の歴史」や「消しゴムの進化」についての記事もチェックしてみてください。文房具は、知れば知るほど面白い「教養の宝庫」ですよ。


[参考文献リスト]

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