夜勤明けの申し送り中、ふと白衣の胸元を見て絶望したことはありませんか?「あ、ボールペンの芯が出たままだった……」。青く滲んだインク汚れを前に、明日もこの白衣を着ていけるのか、買い直すべきかと不安になる気持ち、元看護師の私には痛いほどわかります。
しかし、安心してください。白衣についたボールペンのインク汚れは、水や石鹸で洗う前に「消毒用アルコール」で正しく対処すれば、わずか5分で、しかも輪ジミを作らずに消し去ることが可能です。
この記事では、繊維科学に基づいた「インク除去プロトコル」を、現場の看護師の皆さんのために分かりやすく解説します。
衣類ケアアドバイザー ゆい/ 元・看護師(勤続12年)
総合病院での勤務時代、数え切れないほどの白衣のインク汚れに直面。その経験から繊維科学を学び、現在はメディカルウェアのメンテナンスを専門とするアドバイザーとして活動。延べ3,000着以上のトラブルを解決してきた「白衣ケアのプロ」。
なぜ「擦る」「水洗い」はNG?白衣をダメにする3つの罠
白衣にインクがついた直後、多くの看護師が反射的にやってしまうのが「濡れたティッシュで擦る」ことや「洗面所での水洗い」です。しかし、これらの行動は白衣のインク汚れを悪化させる「罠」となります。
油性インクやゲルインクの汚れに対して、水や石鹸は実は「天敵」です。 なぜなら、油性インクに含まれる溶剤は水に溶けにくいため、水をつけることでインクが繊維の奥で固まり、後からの除去を極めて困難にしてしまうからです。
特に「擦る」という動作は、インクの粒子を繊維の隙間に押し広げ、取り返しのつかない「輪ジミ」を作る最大の原因となります。看護師の皆さんが大切にしている白衣を救うためには、まず「広げない」「濡らさない」ことが鉄則です。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: インク汚れを見つけたら、まずは何もせず、そのままの状態で「消毒用アルコール」を準備してください。
なぜなら、この初期対応が成功の8割を決めるからです。多くの看護師が「とりあえず水で」と処置してしまい、結果としてプロでも落とせない頑固なシミに変えてしまうケースを私は何度も見てきました。

【最短5分】消毒用アルコールを使った「インク除去プロトコル」
白衣のインク汚れを安全かつ確実に落とす主役は、皆さんの職場や家庭に必ずある「消毒用アルコール(エタノール)」です。
消毒用アルコールは油性インクの溶剤を素早く溶解させる性質を持っており、繊維からインクを分離させる役割を果たします。 特に看護師の白衣に多いポリエステル混紡素材はアルコール耐性が高く、生地を傷めるリスクを最小限に抑えながら汚れを浮かせることができます。
準備するもの
- 消毒用アルコール(ジェルタイプでも可)
- 乾いたタオル(汚れても良いもの)
- 綿棒、または使い古した歯ブラシ
除去プロトコルの手順
- 敷く: 汚れた面を下にして、乾いたタオルの上に白衣を置きます。
- 垂らす: 汚れの裏側から、消毒用アルコールをたっぷりと染み込ませます。
- 叩き出す: 綿棒や歯ブラシを使い、上から垂直にトントンと叩きます。
この手順により、アルコールによって溶解したインクが、白衣の繊維から下のタオルへと物理的に移動します。 「洗う」のではなく「移し替える」という意識が、成功のポイントです。

輪ジミを絶対作らない!プロが教える「叩き出し」の極意
インク除去において、最も失敗しやすいのが「輪ジミ」の発生です。輪ジミを防ぐためには、「叩き出し」という技法を正しく理解し、インクの水平方向への拡散を徹底的に抑える必要があります。
「叩き出し」と「擦り洗い」は、汚れに対する物理的なアプローチが根本的に異なります。 擦る動作はインクを横に広げますが、垂直に叩く動作はインクを下の層(タオル)へと押し出します。
成功する「叩き出し」vs 失敗する「擦り洗い」
| 項目 | 叩き出し(正解) | 擦り洗い(NG) |
|---|---|---|
| 力の方向 | 垂直(上から下へ) | 水平(横へ広げる) |
| インクの動き | 下のタオルへ移動する | 繊維の隙間へ広がる |
| 輪ジミのリスク | 極めて低い | 非常に高い |
| 生地への負担 | 少ない | 摩擦で毛羽立つ |
叩き出しの際は、汚れの外側から中心に向かって叩くこと、そしてタオルの綺麗な面にこまめに移動させることを意識してください。タオルの同じ面を使い続けると、一度タオルに移ったインクが再び白衣に戻る「逆汚染」が起き、これが輪ジミの原因となります。
落ちない時はどうする?ゲルインクや時間が経った汚れへの対処法
もし、汚れたペンが「ゲルインクボールペン(サラサなど)」だった場合や、汚れに気づいてから数日が経過している場合は、少し注意が必要です。
ゲルインクは油性インクと異なり、微細な「顔料」が繊維の奥深くに入り込む性質があるため、一度乾燥して固着するとアルコールだけでは完全に除去できないことがあります。 また、時間が経過した汚れはインクが酸化し、繊維と強く結合してしまいます。
このような頑固な汚れには、以下の追加処置を検討してください。
- 界面活性剤の併用: アルコールで叩いた後、食器用中性洗剤を少量つけ、さらに叩き出します。
- 酸素系漂白剤: 最終的に色が残る場合は、40度程度のぬるま湯に酸素系漂白剤を溶かし、30分ほど浸け置きします。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: ゲルインクの汚れが半分以上残る場合や、大切な高級白衣の場合は、無理をせずプロのクリーニング店に相談してください。
なぜなら、ゲルインクの顔料は無理に落とそうとすると繊維を破壊してしまうからです。プロに依頼する際は「アルコールで処置したこと」を伝えると、より適切なシミ抜きを行ってもらえます。
まとめ
白衣にボールペンのインクがついても、もう絶望する必要はありません。
- 水で濡らさず、擦らず、まずは消毒用アルコールを準備する。
- タオルの上に敷き、裏からアルコールを垂らして「叩き出す」。
- インクを下のタオルに完全に移し替える。
この「緊急救命プロトコル」さえ知っていれば、お気に入りの白衣を明日も自信を持って着ていくことができます。今すぐ洗面所へ向かい、アルコールを手に取って、一歩ずつ手順を試してみてください。あなたの白衣は、きっと元通りに輝きを取り戻すはずです。
[参考文献リスト]
- 「ボールペンのインクの落とし方」出典: 三菱鉛筆株式会社 公式FAQ
- 「ボールペンが衣服についた時の処置」出典: ゼブラ株式会社 お客様相談室
- 「服についたボールペンの落とし方」出典: Lidea – ライオン株式会社

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